体育館の輻射式冷暖房

体育館の空調設備に輻射式冷暖房を推奨する3つの理由

西山 大貴

九州大学工学部卒業。輻射式冷暖房「F-CON」の製品開発や国内外の熱負荷計算業務に従事。

学校の体育館は体育の授業で様々なスポーツを楽しんだり、全校集会や入学式、卒業式などの学校行事での利用、さらには地域のサークル活動や選挙の投票所など、多目的スペースとしての活用だけでなく、災害時には避難所の役割も担うなど、地域住民にとって非常に重要な場所です。

体育館の環境改善の必要性

避難所としての課題

特に避難所としての役割に注目すると、2000年以降だけでも、2004年の台風被害や、東日本大震災等の地震災害、2018年の房総半島台風や東日本台風に伴う洪水・土砂災害等、毎年、多くの自然災害が発生しており、非常時の避難先として体育館の環境改善は急務といえます。

引用元:国土交通白書 2020

文部科学省の調査によれば、全国の公立学校のうち避難所として指定されている学校は9割を超えており、2011年3月に起きた東日本大震災では、住民の避難場所として体育館の利用が70.1%でした。

ここで注目すべきは、避難所で問題となった施設・設備として、「トイレ」74.7%に続き、「暖房設備」70.3%となっていることです。

地震があった3/11は冬型の気圧配置で寒さが厳しく、夕方以降は天気の崩れもありました。最高気温は宮城県の気仙沼で5.8℃、石巻で5.9℃、福島県の相馬で8.3℃、最低気温はいずれも氷点下と2月並みの気温で、避難された皆さまが恐怖と寒さに震えながら過ごした日々を思うと心が痛みます。

避難所となった学校施設の利用状況と課題

引用元:文部科学省「東日本大震災における学校等の対応等に関する調査研究報告」

熱中症対策としての課題

屋内で発生する熱中症も大きな問題です。熱中症事故は気温だけでなく湿度も大きく影響しており、気温が比較的低くても湿度が高ければ発生しています。

たとえ日射のない室内でも下表の通り、湿度が高ければ熱中症の危険性が高まります。

体育館の空調設置率

最近、学校施設の空調整備が劇的に進んでおり、教室の空調設置率は90%を超えています。

その一方で体育館の空調設置率はわずか9%とあまり進んでいません。(2020年9月時点)

公立学校施設の空調(冷房)設備の設置状況

引用元:文部科学省「公立学校施設の空調(冷房)設備の設置状況について」

しかし、文部科学省の取り組みとして公立学校施設の整備が掲げられ、体育館の空調設備の設置、断熱改修に対して補助金(学校施設環境改善交付金)が交付されるようになりました。

今後は普通教室に続き、体育館への空調設備導入が加速していくことが予想されます。

引用元:文部科学省「令和4年度予算(案)のポイント」

学校施設環境改善交付金(大規模改造)

2. 算定割合
1/3(財政力指数1.00超の地方公共団体 2/7)
※対象工事費 下限額 400万円 上限額 2億円

3. 対象校
公立の小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程、特別支援学校、幼稚園

4. 工事内容
空調(冷暖房設備)の設置(工事を伴う新設・更新)に要する経費及びその関連工事。
※ただし、資産が形成されないリース契約による空調設置は対象外
※屋内運動場への空調設置については、当該建物に断熱性があることを要件とする。なお、断熱性の無い屋内運動場について、空調設置と併せて断熱性確保のための工事を実施する場合の経費についても補助対象とする。

引用元:大規模改造(空調(冷暖房設備)整備)事業(学校施設環境改善交付金)/文部科学省

体育館用の冷暖房設備

では、体育館などの大空間用の空調設備としてはどのようなものがあるでしょうか。

建物の構造はもちろん、面積、設置場所などの条件にもよりますが、主に下記の設備が挙げられます。

  1. エアハンドリングユニット
  2. 設備用パッケージエアコン
  3. スポットエアコン
  4. 輻射式冷暖房

エアハンドリングユニット

大空間の空調を目的にしたオーダーメイドのエアコンです。

一般に機械室に設置されるエアハンドリングユニットは、 建物内の還気(回収した空気)と建物外の外気をフィルターで浄化し、熱交換器で冷却・加温、加湿器で空気の湿度を調整し、送風機からダクトを通じて建物内へ清浄空気を給気します。

高性能ゆえに高価格であるため、手軽に導入とはいえない空調です。

フィルター、熱交換器、加湿器、送風機など、ユニットごとの分解メンテナンスが必要で、耐用年数は、設備の物理的な劣化やメンテナンスコストの観点から、15年が目安と言われています。

設備用パッケージエアコン

パッケージエアコンは電源を室外機につなげ、室外機から室内機に給電しているので、室外機が稼働している時は、つながっている室内機は全て稼働します。

このように、ひとまとまりのエアコンという意味でパッケージエアコンと名付けられ、供給されるエネルギー源の違いによりガス式(GHP)と電気式(EHP)があります。

ガス式(GHP)は電気ではなくガスで空調を行うため、電気式(EHP)に比べて消費電力量が大幅に少ないのですが、定期点検が必須でメンテナンス費用がかかります。

電気式(EHP)は、ガス配管工事が不要なので施工が早く、初期導入コストやメンテナンス費用がガス式(GHP)より安くすむ反面、電気料金がかさむのがデメリットといえるでしょう。

スポットクーラー

局所的に強い冷風を送り、狙った場所だけを冷やすためのエアコンで、体育館全体を冷却する効果は弱いのがデメリットです。

しかし、人がいるところだけを狙ってピンポイントで冷却するだけであれば、最も手軽で低コストに導入できる手段と言えます。

スポットクーラー

輻射式冷暖房

輻射パネルを屋内に設置し、配管を通してパネル内に冷温水を流し、その輻射熱により空間全体を冷暖します。

室外機はエアコンと同等に10~15年程度で交換が必要ですが、輻射パネル自体は可動部がないため耐用年数が長い上に(期待寿命50年以上)メンテナンスしやすく、ライフサイクルコストを抑えることが可能です。

また、無風・無音であるため、屋内競技への影響が少ないことがメリットです。

LCA小学校・体育館の輻射式冷暖房
輻射式冷暖房「F-CON」の採用事例

詳しくは「体育館・スポーツ施設 | 輻射式冷暖房の導入実績」へ

体育館の空調に輻射式冷暖房を推奨する3つの理由

輻射式冷暖房の素晴らしさを世に広めるべく、その魅力を発信し続けている身として、ここからは、体育館の空調設備として輻射式冷暖房がいかにふさわしいかご説明します。

最大のポイントは「風」です!

輻射式冷暖房には「有風タイプ」と「無風タイプ」の2種類ありますが、ここでは「無風タイプ」に限定してその魅力をお話ししたいと思います。

無風なので、競技に影響しない

まず、体育館には様々な目的で活用されることは先に述べましたが、一番の目的は何と言っても運動、スポーツの用途です。

屋内スポーツも色々ありますが、特にバドミントンや卓球など風の影響を受けやすい種目はその競技環境整備に非常に苦労しているようです。

例えば、バドミントンはシャトルの重量が約5gと非常に軽く、羽もついているため風の影響を受けやすく、真夏でも体育館の窓を閉め切り(時に空調を止めて)練習することもしばしば。

そのような過酷な環境は熱中症の危険も大いに潜んでおり、けっして推奨できるものではありません。

バトミントンや卓球競技

かといって、空調設備が競技の勝敗を左右するようなことは絶対にあってはなりません。

2014年に韓国の仁川で行われたアジア大会のバドミントン男子の試合で、試合会場の空調設定が「ホーム」の韓国に有利になっていたとして、日本チームが抗議の声をあげた「空調操作」疑惑問題を覚えているでしょうか。

大会組織委員会は意図的な風の操作を否定し、その真相は謎のまま、日本にとっては後味の悪い結果となりましたが、もし、この試合会場の空調設備が無風の輻射式冷暖房だったら… このような疑惑問題は起こらなかったことでしょう。

局所的かつ効率的な冷暖房で、省エネ効果も期待できる

風による空調=対流式冷暖房(エアハンドリングユニット/設備用パッケージエアコン/スポットクーラー)など)と、無風の空調=輻射式冷暖房では空調方式に違いがあります。

対流式冷暖房は天井などから空間全体を冷暖します。温かい空気は上へ、冷たい空気は下へ移動しますので、風が届く/届かないでどうしても温度ムラが発生します。

それに比べて輻射式冷暖房は空気を介すことなく冷暖房するため温度ムラが少なく、人が活動するゾーンのみ局所的、かつ効率的な空調コントロールが可能です。これにより、省エネ効果も期待できます。

無風なので、ホコリやウイルスを巻き上げない

もう1点、「風」というキーワードで最も身近な問題としては、やはり新型コロナウイルスでしょう。

コロナ初期に話題になった「ダイヤモンドプリンセス号」を覚えているでしょうか。客船という閉ざされた空間の中で、乗員乗客3,711人のうち712人がコロナウイルスに感染し、集団感染の恐ろしさを国内に知らしめたこの事件では、感染拡大対策として「船内の空気循環を止める」という対応がとられました。

新型コロナウイルスの感染経路は主に3つ、①エアロゾル感染、②飛沫感染、③接触感染です。

これまで①エアロゾル感染については、その可能性を示唆しているのみでしたが、国立感染症研究所の発表によると、空中に浮遊するウイルスを含んだエアロゾルを吸い込むことで感染するとの見解が示されております。

参考:国立感染症研究所:新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染経路について

エアロゾルは、1回の咳で約700個、1回のくしゃみで約4万個発生し空中を浮遊するので、感染者との距離が遠いにもかかわらず感染が発生した事例が国内外で報告されています。

参考:COVID-19 Outbreak Associated with Air Conditioning in Restaurant, Guangzhou, China, 2020

体育館は競技者はもちろん、観戦者など多くの人が集まります。学校行事や地域のイベントで使用される場合も同様です。時に避難所としての役割を求められた際は、厳しい状況の中で避難してきた方々が身を寄せ合い、困難に立ち向う重要拠点となります。

そのような場所が、「風」のある空調によって、ウイルスやホコリが舞い上がり、その空気が攪拌されることで感染リスクが高まるような事態は極力避けるべきではないでしょうか。

このような観点からも、体育館という重要な役割を果たす大空間の空調設備には、無風の輻射式冷暖房が最も適していると言えるでしょう。

輻射式冷暖房の導入は断熱改修もセットで

ただし、輻射式冷暖房は建物の性能によって冷暖房効果が大きく左右されます。体育館の適切な温熱環境を確保するためには、以下の内容を検討する必要があります。

  1. 地域の気候等を踏まえた建物の熱の出入りを把握(熱負荷計算)
  2. 建物(屋上、壁面、窓等)の断熱性能向上
  3. 日射を遮る庇、ルーバー等の設置

特に体育館のような大空間では、気密性能を高めることで空調効果が大幅にアップします。

先述の通り、国からの補助金空調設置と併せて断熱性確保のための工事を実施する場合の経費についても対象となりますので、空調設備と断熱改修をセットで検討されることを強くおすすめいたします。

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