輻射式冷暖房は、輻射パネルから輻射熱(放射熱)を発することで室内の温熱環境をコントロールします。
その輻射熱の量(放射エネルギー)は、輻射パネルの「放射率」と「表面温度」と「見かけの表面積」の3つの要素で決まります。
本記事では、放射エネルギーの計算式をもとに上記の根拠を解説いたします。
目次
放射エネルギーとは?
放射(輻射)エネルギーとは、発生源から自由空間に放射されるエネルギーと物理学上定義されています。
輻射式冷暖房に関する文脈では、輻射パネルや人から放射される輻射熱の総量を指します。
放射エネルギーの計算式
放射エネルギーは、以下の物理法則によって求められます。
シュテファン=ボルツマンの法則
$$E = εσT^4$$- E [W/㎡]
- 放射エネルギー
- ε
- 放射率(素材や表面形状によって0~100%)
- σ [W/(㎡·K4)]
- ステファン・ボルツマン定数 = 5.67×10-8(定数)
- T [K]
- 絶対温度[ケルビン] = 物体の表面温度
T [K]=273 [℃] + ● [℃], 例:27℃=300K、-273℃=0K
熱力学における熱の単位
熱力学において、温度の単位は絶対温度[K](ケルビン)を用います。日常的に馴染みのある℃(摂氏温度)から絶対温度を求める数式は、以下のとおりです。
$$T[K] = t[℃] + 273[℃]$$例えば人の体温を37℃とすると、その絶対温度は310[K]となります。また、0[K](= -273℃)を絶対零度と呼びます。
放射エネルギーの特徴
シュテファン=ボルツマンの法則から、以下の2つのことが導き出すことができます。
放射エネルギーは「放射率」と「物体の表面温度」と「見かけの表面積」によって決まる
$$E = εσT^4$$上記の計算式において、「ステファン・ボルツマン定数(ε)」は定数であり、「放射率(σ)」と「物体の表面温度(T)」は変数となります。
したがって、放射エネルギーの数値は「放射率」と「物体の表面温度」の値によって決まることがわかります。
さらにシュテファン=ボルツマンの法則の結果が [W/㎡] で単位面積あたりであることから、放射エネルギー量は輻射パネルの「見かけの面積」に比例することがわかります。
絶対零度以上のあらゆる物体は放射エネルギーを放出している
$$E = εσT^4$$「物体の表面温度(T)」が 0[k](= 絶対零度) の場合、「放射エネルギー(E)」も0 [W/㎡] となります。言い換えると、絶対零度以上のあらゆる物体は放射エネルギーを放出しているとも言えます。
つまり、人も放射エネルギーを放出していることになり、人体を含めた室内のあらゆる物体は輻射熱(放射熱)の影響下にあるということです。
輻射式冷暖房に関わる放射エネルギー
下図は、表面素材別に放射エネルギーを算出した比較表です。
表面素材 | 輻射エネルギー (E) | 放射率 (ε) | 表面温度 (T) |
①人の皮膚 | 約506 [W/㎡] | 98% | 36℃ (=309[K]) |
②輻射パネル(塗料) | 約485 [W/㎡] | 94% | 36℃ (=309[K]) |
③輻射パネル(塗料) | 約552 [W/㎡] | 94% | 46℃ (=319[K]) |
④輻射パネル(プラスチックPP) | 約504 [W/㎡] | 86% | 46℃ (=319[K]) |
シュテファン=ボルツマンの法則に沿って、それぞれの要素を解説していきましょう。
$$E = εσT^4$$前述の通り「ステファン・ボルツマン定数(σ)」は定数となりますので、「放射エネルギー(E)」における変数は「放射率(ε)」と「物体の表面温度(T)」になります。
放射率による差異
人の皮膚(①)や塗装された輻射パネル(②③)は、いずれも放射率が高い(94%〜98%)表面素材であると言えます。
つまり、輻射パネルの放射エネルギーにおいて、「放射率(ε)」の差は小さく、「物体の表面温度(T)」の差による増減が大きいことがわかります。
表面温度による差異
「放射率(ε)」が等しい塗装された輻射パネル(②③)において、「物体の表面温度(T)」が36℃(②)と46℃(③)と異なる場合、それぞれの放射エネルギーは約485 [W/㎡](②)と約552 [W/㎡](③)と、約13.8%もの差が生じています。
例えば、46℃の温水が輻射パネルの流水部を流れ、パネルの表面では36℃に下がってしまう場合、約13.8%の放射エネルギーを弱まってしまうことになります。
以上のことから、輻射パネルの放射エネルギーを高めるためには、輻射パネルの表面温度が暖房時は高く、冷房時は低いことが重要と言えます。
そのため、輻射パネルの流水部を流れる冷温水の温度と、輻射パネルの表面温度がなるべく一致させて、冷房時は低い温度、暖房時は高い温度にすることが熱効率が高まります。
詳しくは「輻射パネルの性能を正しく評価するために」へ
輻射式冷暖房における重要な要素
輻射パネルの性能は、「放射熱伝達量(= 放射エネルギー量)」と「対流熱伝達量」の合計で決まります。
上述の通り、輻射パネルの「放射エネルギー量」は、輻射パネルの「輻射率(ε)」よりも「物体の表面温度(T)」が重要です。
さらに、放射エネルギーの単位が [W/㎡] であることから、輻射パネルの見かけの面積が大きければ大きいほど放射エネルギー量が多いと言えます。
下図はFUTAEDA株式会社の環境試験室で行った輻射パネルの現行機と試作機のサーモグラフィーと性能比較表です。
※試験室内の条件は、20℃ 40%、パネルへの供給条件は、水温50℃ 流量1.5L/min
※輻射量は、パネルから特定の距離で取得した輻射センサー9点(放熱部)の測定平均値
スリット形状の現行機は見かけの面積が大きく(全体的に赤い部分が大きく)、試作機と比べて放射量も大きいことがわかります。
詳しくは「輻射式冷暖房とは?仕組みやエアコンとの違いを解説」へ
まとめ
シュテファン=ボルツマンの法則から、放射エネルギーに関する2つの特徴がわかりました。
- 放射エネルギーは「放射率」と「物体の表面温度」と「見かけの表面積」によって決まる
- 絶対零度以上のあらゆる物体は放射エネルギーを放出している
つまり、室内の温熱環境において、人体を含めたすべてのものが輻射の影響下にあると言えます。その輻射の原理を応用して温熱環境をコントロールするのが輻射式冷暖房です。
輻射式冷暖房については「輻射式冷暖房とは?エアコンとの違いやメリット・デメリットを解説」にて、仕組みやメリットを解説していますので、ぜひ合わせてお読みください。
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