放射エネルギーとは?計算式や特徴について

西山 大貴

九州大学工学部卒業。輻射式冷暖房「F-CON」の製品開発や国内外の熱負荷計算業務に従事。

輻射式冷暖房は、輻射パネルから輻射熱(放射熱)を発することで室内の温熱環境をコントロールします。

その輻射熱の量(放射エネルギー)は、輻射パネルの「放射率」と「表面温度」と「見かけの表面積」の3つの要素で決まります

見かけの表面積と実表面積の違い

本記事では、放射エネルギーの計算式をもとに上記の根拠を解説いたします。

放射エネルギーとは?

放射(輻射)エネルギーとは、発生源から自由空間に放射されるエネルギーと物理学上定義されています。

輻射式冷暖房に関する文脈では、輻射パネルや人から放射される輻射熱の総量を指します。

放射エネルギーの計算式

放射エネルギーは、以下の物理法則によって求められます。

シュテファン=ボルツマンの法則

$$E = εσT^4$$
E [W/㎡]
放射エネルギー
ε
放射率(素材や表面形状によって0~100%)
σ [W/(㎡·K4)]
ステファン・ボルツマン定数 = 5.67×10-8(定数)
T [K]
絶対温度[ケルビン] = 物体の表面温度
T [K]=273 [℃] + ● [℃], 例:27℃=300K、-273℃=0K

熱力学における熱の単位

熱力学において、温度の単位は絶対温度[K](ケルビン)を用います。日常的に馴染みのある℃(摂氏温度)から絶対温度を求める数式は、以下のとおりです。

$$T[K] = t[℃] + 273[℃]$$

例えば人の体温を37℃とすると、その絶対温度は310[K]となります。また、0[K](= -273℃)を絶対零度と呼びます。

放射エネルギーの特徴

シュテファン=ボルツマンの法則から、以下の2つのことが導き出すことができます。

放射エネルギーは「放射率」と「物体の表面温度」と「見かけの表面積」によって決まる

$$E = εσT^4$$

上記の計算式において、「ステファン・ボルツマン定数(ε)」は定数であり、「放射率(σ)」と「物体の表面温度(T)」は変数となります。

したがって、放射エネルギーの数値は「放射率」と「物体の表面温度」の値によって決まることがわかります。

さらにシュテファン=ボルツマンの法則の結果が [W/㎡] で単位面積あたりであることから、放射エネルギー量は輻射パネルの「見かけの面積」に比例することがわかります。

絶対零度以上のあらゆる物体は放射エネルギーを放出している

$$E = εσT^4$$

「物体の表面温度(T)」が 0[k](= 絶対零度) の場合、「放射エネルギー(E)」も0 [W/㎡] となります。言い換えると、絶対零度以上のあらゆる物体は放射エネルギーを放出しているとも言えます。

つまり、人も放射エネルギーを放出していることになり、人体を含めた室内のあらゆる物体は輻射熱(放射熱)の影響下にあるということです。

輻射式冷暖房に関わる放射エネルギー

下図は、表面素材別に放射エネルギーを算出した比較表です。

表面素材輻射エネルギー
(E)
放射率
(ε)
表面温度
(T)
①人の皮膚約506 [W/㎡]98%36℃ (=309[K])
②輻射パネル(塗料)約485 [W/㎡]94%36℃ (=309[K])
③輻射パネル(塗料)約552 [W/㎡]94%46℃ (=319[K])
④輻射パネル(プラスチックPP)約504 [W/㎡]86%46℃ (=319[K])

シュテファン=ボルツマンの法則に沿って、それぞれの要素を解説していきましょう。

$$E = εσT^4$$

前述の通り「ステファン・ボルツマン定数(σ)」は定数となりますので、「放射エネルギー(E)」における変数は「放射率(ε)」と「物体の表面温度(T)」になります。

放射率による差異

人の皮膚(①)や塗装された輻射パネル(②③)は、いずれも放射率が高い(94%〜98%)表面素材であると言えます。

つまり、輻射パネルの放射エネルギーにおいて、「放射率(ε)」の差は小さく、「物体の表面温度(T)」の差による増減が大きいことがわかります。

表面温度による差異

「放射率(ε)」が等しい塗装された輻射パネル(②③)において、「物体の表面温度(T)」が36℃(②)と46℃(③)と異なる場合、それぞれの放射エネルギーは約485 [W/㎡](②)と約552 [W/㎡](③)と、約13.8%もの差が生じています。

例えば、46℃の温水が輻射パネルの流水部を流れ、パネルの表面では36℃に下がってしまう場合、約13.8%の放射エネルギーを弱まってしまうことになります。

以上のことから、輻射パネルの放射エネルギーを高めるためには、輻射パネルの表面温度が暖房時は高く、冷房時は低いことが重要と言えます。

そのため、輻射パネルの流水部を流れる冷温水の温度と、輻射パネルの表面温度がなるべく一致させて、冷房時は低い温度、暖房時は高い温度にすることが熱効率が高まります。

詳しくは「輻射パネルの性能を正しく評価するために」へ

輻射式冷暖房における重要な要素

輻射パネルの性能は、「放射熱伝達量(= 放射エネルギー量)」と「対流熱伝達量」の合計で決まります。

上述の通り、輻射パネルの「放射エネルギー量」は、輻射パネルの「輻射率(ε)」よりも「物体の表面温度(T)」が重要です。

さらに、放射エネルギーの単位が [W/㎡] であることから、輻射パネルの見かけの面積が大きければ大きいほど放射エネルギー量が多いと言えます。

下図はFUTAEDA株式会社の環境試験室で行った輻射パネルの現行機と試作機のサーモグラフィーと性能比較表です。

輻射パネルの輻射量比較実験/FUTAEDA株式会社
輻射パネルの輻射量比較実験/FUTAEDA株式会社

※試験室内の条件は、20℃ 40%、パネルへの供給条件は、水温50℃ 流量1.5L/min​
※輻射量は、パネルから特定の距離で取得した輻射センサー9点(放熱部)の測定平均値

スリット形状の現行機は見かけの面積が大きく(全体的に赤い部分が大きく)、試作機と比べて放射量も大きいことがわかります。

詳しくは「輻射式冷暖房とは?仕組みやエアコンとの違いを解説」へ

まとめ

シュテファン=ボルツマンの法則から、放射エネルギーに関する2つの特徴がわかりました。

  • 放射エネルギーは「放射率」と「物体の表面温度」と「見かけの表面積」によって決まる
  • 絶対零度以上のあらゆる物体は放射エネルギーを放出している

つまり、室内の温熱環境において、人体を含めたすべてのものが輻射の影響下にあると言えます。その輻射の原理を応用して温熱環境をコントロールするのが輻射式冷暖房です。

輻射式冷暖房については「輻射式冷暖房とは?エアコンとの違いやメリット・デメリットを解説」にて、仕組みやメリットを解説していますので、ぜひ合わせてお読みください。

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