温熱環境の6要素

温熱環境の6要素と評価指標について

西山 大貴

九州大学工学部卒業。輻射式冷暖房「F-CON」の製品開発や国内外の熱負荷計算業務に従事。

同じ気温でも日なたと日陰では体感温度が異なるように、「温度」や「湿度」だけでなく「輻射熱(放射熱)」等を含めた6つの要素が人の温熱感覚を左右します。

これらの温熱感覚や快適感の6要素によって構成される環境を「温熱環境」と呼びます

本記事では、温熱環境の定義や評価指標など、快適な温熱環境を実現するための前提知識を解説いたします。

温熱環境を構成する6つの要素

温熱環境は下記の6要素で構成され、環境による要素と人による要素に大別されます。

  1. 温度
  2. 湿度
  3. 気流
  4. 輻射(放射)
  5. 活動量(代謝量)
  6. 着衣量
温熱環境の6要素

環境による温熱環境の要素

日常生活においては、エアコンで室温(温度)を調整したり、除湿(湿度)したり、送風の強さや向き(気流)を制御するのが一般的です。

しかし、後述する通り、室内の快適な温熱環境を設計するためには輻射熱(放射熱)も考慮することが重要です。

温度
気温、温度計で示される値を指します。
湿度
空気中の水分量のことを指します。同じ温度でも湿度が異なると体感する寒さや暑さが異なり、汗の蒸発も快適性に影響します。
気流
気流とは空気の流れを指します。一般的に、気流が大きいほど体感温度は下がります。
輻射熱(放射熱)
周囲の物体から赤外線によって人体に伝わる熱です。具体的には、室内における壁や床や天井の全方向の表面温度(平均輻射温度=MRT)を指します。

※詳しくは「輻射熱(放射熱)とは?伝熱の仕組みや応用例を解説」へ

人による温熱環境の要素

人による温熱環境の要素は、個人の体質や生活習慣によって変化しますが、先述の環境による温熱環境の要素に比べるとコントロールしやすいのが特徴です。

活動量(代謝量・ Met値)
活動の活発さ、すなわち身体から発生する熱量のことを指します。例えば、激しい運動中は気温の低さが気にならなかったり、飲酒で暑くなったり、活動内容によって体感温度が異なります。
着衣量(clo値)
着衣量とは、着衣の断熱・保温性を示す指標で、着ている服の種類や量のことを指します。

また同じ室内でも、デスクワークを前提とするオフィスと、運動を前提とする体育館では、活動量や着衣量が異なることを考慮して温熱環境を設計する必要があります。


温熱環境の評価方法

温熱環境を評価する方法として下記6つの指標が提唱されており、それぞれ評価対象の要素が異なります。

温熱評価法環境側要素人間側要素
温度湿度気流輻射代謝量着衣量
作用温度(OT)
有効温度(ET)
新有効温度(ET※)
標準新有効温度(SET※)
予測平均温冷感申告(PMV)
不快指数(DI) –

本章では、輻射(放射)を評価対象としている予測平均温冷感申告(PMV)と作用温度(OT)を例に挙げて解説いたします。

予測平均温冷感申告(PMV)とは

1967年、デンマーク工科大学のファンガー教授によって、人体の熱負荷と人間の温冷感を結びつけた温熱環境評価指数PMV(予測温冷感申告)およびPPD(予測不満足者率) が提唱されています。

PMV(Predicted Mean Vote:予測平均温冷感申告)

PMVとは、温熱環境を評価する単一尺度で、「かなり暑い:+3」〜「かなり寒い:-3」の7段階で数値化され、中央値の「中立(快適):0」が熱くも寒くもない、熱的に不快のない状態を示します。

PPD(予測不満足者率)

PPDとは、ある温熱環境に対し、何%の人がその環境に不満を示すかを表します。PPDが高いほど、その環境を不満に感じる割合が多く予想されます。

PMVとPPDの関係性

PMVにはPPDが対応付けられ、1300人に及ぶ申告実験の結果、PMVとPPDの関係性は下図のように導き出されました。

PMVとPPDの関係性

ISO(国際標準化機構)ではPMVが±0.5以内、PPD(不快者率)が10%以下となる温熱環境を快適として推奨しています。

PPDの最小値が5%となっていますが、不快感は主観的で体質にも左右されるため、不満0%と言い切れず必ず誤差が生じる、ということを指しています。

PMVとPPDの注意点

PMVはあくまでも主観的な温熱環境の指標であることを注意しなければなりません。

例えば、人は暑いときには多少の風を受けた方が涼しく快適に感じます。下図のように室内の温熱環境が異なる条件でも、PMV上は同じ数値として表現されることもあるのです。

しかし、直接風が当たる環境は必ずしも身体に良いとは言えません。

そよ風くらいなら人は快適に感じると思いますが、ずっと長時間、体の熱(気化熱)が奪われて低体温症になる恐れがあったり、交感神経が高まることが確認されていいます。これは扇風機やエアコンを付けっぱなしで就寝することがよくないと言われているゆえんです。

そこでFUTAEDA株式会社では、この温熱環境の視点に健康や睡眠という軸を加え、『無風環境でPMVの数値をどう高めるか?』を研究課題と定めています。

研究成果「世界初・無風の快適さを脳科学視点で定量評価」へ

作用温度(OT: Operative Temperature)とは

作用温度とは、室内の気温の他、床、壁、天井の表面温度の影響を含めた室内の温熱環境の評価指標です。

作用温度は、気温と平均放射温度(MRT)から熱収支計算に基づいた体感温度を算出することができます。

$$t_o = \frac{h_c \times t_a + h_r \times t_t}{h_c + h_r}$$
to作用温度[℃]
hc対流熱伝達[W/(m2・℃)]
hr放射熱伝達[W/(m2・℃)]
ta気温[℃]
tr平均放射温度(MRT)[℃]

室内におけるおおよその体感温度

上記の作用温度の方程式を簡素化すると、おおよその体感温度は下図の方程式で表現することができます。

$$おおよその体感温度 = \frac{気温 + 壁や天井の表面温度}{2}$$

※風速0.2m/s未満の場合

例えば、冬場の断熱がないコンクリート打ちっぱなしの部屋に引っ越すと肌寒く感じることがあるように、同じ室温に設定しても、壁や天井の表面温度が低いと体感温度も下がってしまいます。

つまり、室内の温熱環境においては、壁や天井などの表面温度(= 輻射熱)も重要な要素と言えるのです。

まとめ

温熱環境とは、聞き馴染みのなる「気温」や「湿度」に加えて、「輻射熱(放射熱)」を含めた6つの要素から構成されます。

日常生活において、エアコンや天気予報などでは、温度と温度のみで人の温熱感を判断することが一般的でしたが、壁や天井の室内表面温度(=輻射熱)も意識することが大切です。

そこで、より快適な室内環境を実現するために、輻射熱(放射熱)も含めて総合的に設計することが、これからの業界水準となりつつあります。

より良い温熱環境に関する考察は「快適性と健康性から考察する理想的な温熱環境とは」を合わせてお読みください。

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