宿泊施設の空調設備は全館空調(集中管理型)が主流ですが、最近では宿泊客の満足度を優先するために個別空調を導入・併用させる施設も増えています。
全館空調では冷房も暖房も必要な中間期(春と秋)の温度管理が難しく、宿泊客の個々の体感差によって満足度に影響が出てしまうためです。
本記事では、ホテルの空調設備の方式ごとのメリット・デメリットの解説や、運用コスト・顧客満足度などに関わる課題の解決策として、最適な輻射式冷暖房システムをご紹介いたします。
目次
ホテルの空調設備の方式
ホテルの空調設備は、全館空調と個別空調に大別されます。
全館空調(集中管理型・セントラル方式)
全館空調は熱源を一箇所にまとめて、空調を空気調和機へ分散させる仕組みです。
セントラル空調や中央式空調とも呼ばれており、空調の制御は中央管理室などでまとめて行います。
宿泊施設のように人の出入りが多く、広いスペースがある建物は個別空調での温度・空調管理は難しいため、建物内を一定温度に保つことができる全館空調が最適とされています。
詳しくは「全館空調とは?メリット・デメリットとメーカーの選び方を解説」へ
さらに全館空調は、ファンコイルユニット方式と輻射式冷暖房に細分化されます。
全館空調の種類
ファンコイルユニット方式
ファン(送風機)とコイル(熱交換器)をユニット化した空調機で冷暖房するシステムです。
ファンコイルユニット方式は、冷温水を供給する配管の仕様(2管式/4管式)によって特徴が異なります。
2管式システム
冷温水を供給する配管を、往復各1本の計2本配管するシステムです。夏期は冷水を循環させて冷房を、冬期は温水を循環させて暖房を行います。
4管式と比較してイニシャルコスト・ランニングコストが安い反面、冷暖房を同時運転できない※デメリットがあります。
※季節の変わり目に冷暖房のいずれかしか稼働できないため、宿泊客からのクレームに繋がりやすくなります。
4管式システム
冷温水を供給する配管を、冷暖房それぞれ往復各1本の計4本配管するシステムです。
冷房と暖房の同時運転が可能な反面、2管式と比較してイニシャルコスト・ランニングコストが高くなります。
輻射式冷暖房
輻射パネルに冷温水を循環させ、輻射の原理で空間全体を冷暖房するシステムです。
無風型の輻射式冷暖房システムは送風を必要としないため、下記のようなメリットが挙げられます。
- 構造上、メンテナンスが簡単で故障しづらい
- 風が直接当たることによる乾燥が起こらない
- 構造上、音が発生しない
※詳しくは「輻射式冷暖房とは?エアコンとの違いやメリット・デメリットを解説」へ
全館空調のメリット
- すべての制御が中央管理室で行われているため、個々でコントロールする手間を省ける。
- 管理スペースが1箇所で済み、個別空調に比べてスペースを削減できる。
- 温度差が生じにくく、静音性に優れている。
全館空調のデメリット
- 部屋ごとにON/OFFの切り替えや温度、風量の調節が自由にできない。
- 部屋ごと、お客様ごとの「暑い・寒い」といった体感に応えられない。
- 季節の変わり目など中間期の温度調整が難しい(2管式システム)。
- 故障した場合、建物全体の空調がストップしてしまう※。
※全館空調の中でも可変風量方式(VAV=Variable Air Volume)であれば、室内の温度差を感知するセンサーにより、風量の調節を自動的にしてくれる仕組みのため個別制御が可能です。
個別空調(個別分散方式)
個別空調は一般住宅のエアコン同様、各部屋で個別に温度調整等ができる形式です。
パッケージエアコンとマルチエアコンの2種に大別され、室内機と室外機の関係が異なります。
パッケージエアコン | マルチエアコン |
---|---|
室外機と室内機が1対1の関係 | 室外機と室内機の関係性は1対多数 |
個別空調のメリット
- 部屋ごとに温度や風量を自由に調節できる。
- 必要な時だけ使用できる。
- 故障した場合も、個別に修理、交換が可能。
個別空調のデメリット
- 自由に温度や風量を調節できるため、使いすぎるとコストがかかる。
- 建物の設計・構造上の問題で、室外機置き場(例:ベランダなど)が確保できなかったり、設置場所によっては建物の外観を損ねてしまう場合がある。
全館空調と個別空調の併用
全館空調と個別空調の併用は可能です。メインは全館空調で建物全体を管理し、部屋ごとに個別空調を設置するという仕組みが一般的です。
全館空調の全体的な温度管理では、場所や人の多さ、個々の好みの違いによって不快に感じる場合がありますので、適所に個別空調を併用して風量や温度を調節することで、快適な宿泊体験を提供することが可能になります。
方式別の利用状況
一般社団法人 全日本ホテル連盟の調査によると、客室の空調設備は「集中管理型(全館空調)」が 48.2%と最も高く、次いで「個別空調型」が26.8%、「個別空調型と集中管理型」が 19.6%となっております。
宿泊客ごとのニーズに応えられるよう個別空調を導入・併用する宿泊施設が増えていますが、個別空調のための室外機の置き場が無いといった建物構造上の理由から全館空調(集中管理型)のままのケースが多いようです。
ホテルの空調に関わる課題
感染症対策
一般社団法人日本ホテル協会が制定した「ホテル業における新型コロナウィルス感染症 感染拡大予防ガイドライン(2021)」において、ホテル内での感染防止に向けた具体的な取り組みがまとめられています。
ガイドラインでは、飛沫感染を予防するためには「換気の徹底」と、「ビル管理法(建築物環境衛生管理基準)で定められた基準をクリアした空調設備の維持管理」が求められています。
以下、空調設備に関わるガイドラインを抜粋します。
2) 飛沫感染の予防 ⑨換気の徹底
引用:ホテル業における新型コロナウィルス感染症 感染拡大予防ガイドライン / 一般社団法人日本ホテル協会
i. 館内 (客室 レストラン・宴会場ロビーなど)の換気については、ビル管理法に基づく空気環境の調整に関する基準に適合するよう、維持管理に努め、外気に触れる窓やドアがある場合は、定期的に空気の入れ替えを行い、こまめな換気に努めましょう。
参考:「換気の悪い密閉空間」 を改善するための換気の方法 / 厚生労働省
参考:冬場における「換気の悪い密閉空間」 を改善するための換気の方法 / 厚生労働省
参考:空調・換気による COVID-19 の拡散はあるのか? / 公益社団法人 空気調和・衛生工学会 新型コロナウイルス対策特別委員会
省エネ対策
東京都では、2016年3月に策定された「東京都環境基本計画」に基づいて、スマートエネルギー都市の取り組みを推進しています。
空調設備の運用改善による省エネ対策
東京都環境局では、ホテルの省エネ対策として下記の運用改善案を推奨しています。
- 適正な温度管理
- 運用ルールの設定
- 室温の把握と管理
- 設定温度の緩和
- 空調負荷の低減
- 運転時間の適正化
- 外気導入量の適正化
- 効率維持のためのメンテナンス
- 空調機内及びフィルターの定期清掃
- 室外機フィンコイルの定期洗浄
- 室外機周囲の環境改善
一般的に、冷暖房の設定温度を1℃緩和することで、空調機のエネルギー使用量を約10%が削減できると言われています。(1-3. 設定温度の緩和)
また、空調機器やフィルターを定期的にメンテナンスすることで、年間5〜10%の省エネ効果が期待できるとされています。(3-1. 空調機内及びフィルターの定期清掃)
東京都環境局の調査によると、多くのホテルで空調・換気フィルターの清掃、空調運転時間の適正化、空室・不在時等のこまめな消灯が実施されています。
空調設備の設備改善による省エネ対策
東京都環境局では、ホテルの省エネ対策として下記の設備改善案を推奨しています。
- 高効率空調設備の導入
- 複層ガラス・遮熱フィルムの導入
昨今の空調機は制御装置の進歩等で運動効率が向上しており、20年前の空調機と比較すると25〜35%の効率向上が期待できると言われています。
また、遮熱フィルム・複層ガラスを導入することで断熱・遮熱効果を高めることは、空調設備のエネルギー削減に有効です。
運用・メンテナンスコストの削減
空調清掃にかかる運用コスト
全館空調、個別空調ともに「風」を伴う空調の場合、フィルター掃除・交換、内部洗浄などが必要です。
その清掃全てを自社で行うには専門的な知識や機械が必要となるだけでなく、風の吹き出し口が高所にあり危険が伴うため、定期清掃として専門業者に依頼することになります。
ホテルの規模・設置台数によりますが、個別空調の場合は機器が各室に設置されていることから、時間とコストは相当なものになります。
特に客室内はしっかり養生してから洗浄作業に取り掛かる必要があるため、お客様のチェックアウトから、次のお客様のチェックインまでの短時間にすべての清掃を終えることが難しく、数日にわたって作業することもあります。
故障時にかかる修理、交換費用問題
個別空調はいわゆる一般家庭のエアコンと同じですから、室外機の寿命は10~15年程度で、故障時は室内機と室外機の両方を交換する必要があります。
すべての機器が同時に故障する可能性は低いものの、経年劣化による故障は避けて通れません。
全館空調は個別空調よりも寿命が長いと言われていますが、それでも経年劣化による故障はいつか必ず起きることです。
もし配管やダクト内でトラブルがあった場合は、天井や壁を剥がして対応といった大掛かりな工事が必要となる場合もあり、保証期間を過ぎている場合の修理、交換費は相当な金額となります。
顧客満足度
良質なサービスを提供しても、設備の仕様・不調等によって宿泊体験が損なわれてしまうと、ネガティブな口コミにつながってしまいます。
宿泊施設はお客様がきちんと眠れる環境を提供するのが大前提ですから、お客様が熟睡できない環境、宿泊したがためにさらに疲労が増すような状況は直ちに改善すべきです。
空調に関わるネガティブな口コミ例
- 暑くて(寒くて)眠れない。自分の好きなように温度、風量、風向きを調整したい。
- 自分で温度調整できないので窓を開けようと思ったら、事故防止のためか窓が開けられない。
- エアコンの風がカビくさい。ホコリくさい。
- エアコンの音がうるさくて眠れない。オフにすると暑くて眠れない。
- ホテルの部屋の空気が乾燥していて、喉に違和感を感じて眠れない。
- シングルルームなど部屋が狭いと、ベッドや、デスクにエアコンの風が直撃するよう吹き出し口が設置されていて、直風がツライ。
ホテルに最適な空調設備とは?
昨今では、宿泊者の満足度を高めるために個別空調を導入・併用する宿泊施設が増えています。
しかし、上記に挙げたネガティブな口コミの内、個別空調の導入だけでは根本的に解決できないケースがあります。
それは、「送風」が要因の機能面・体感面のデメリットです。
送風機能によるデメリット
エアコンやファンコイルユニットなど、空調に送風が伴う場合、下記のような宿泊体験への影響が生じます。
空調設備の課題 | 送風機能によるデメリット |
---|---|
感染症対策 | 送風によるホコリの巻き上げ、ウイルスの拡散 |
顧客満足度 | 直接風が当たることによる乾燥 |
運用・メンテナンスコスト | フィルターの定期清掃・交換が必要 |
無風の輻射式冷暖房システム「F-CON」
輻射式冷暖房のF-CONは、今まで述べてきたホテル空調の課題や、お客様の不満をすべて解消できる新しい全館空調システムです。
送風(気流)ではなく輻射の原理で空間全体を空調することで、下記のメリットが挙げられます。
空調設備の課題 | 無風の「F-CON」のメリット |
---|---|
感染症対策 | 無風なので送風リスクが少なく、ホコリ・ウイルスを拡散しない(換気は必要です) |
省エネ対策 | 送風に比べ体感温度が1,2℃改善されるので、設定温度を緩和できる |
運用・メンテナンスコスト | フィルターやファンが無いので、輻射パネルの拭き掃除のみ |
顧客満足度 | 無風・無音なので、送風によるストレスが無い (例:乾燥、風のカビ臭さなど)
導入時に温熱環境設計を行うため、部屋内の温度ムラが解消される |
※詳しくは「輻射式冷暖房とは?エアコンとの違いやメリット・デメリットを解説」へ
F-CONで実現した「エアコンの無いホテル」
HOTEL GREAT MORNING
「最高の目覚めをお約束すること」をコンセプトに、全室にF-CONを導入したHOTEL GREAT MORNINGは、F-CONによる極上の快適環境、そしてリネンの素材・寝具・水まで、「最高の朝」を迎えるためにこだわり抜いたFUTAEDA社が運営するホテルです。
2018年のオープン後、延べ数千組のお客様にご宿泊いただいており、今まで加湿器を貸し出したお客様は2組のみです。
睡眠やSDGs・省エネの観点で、専門メディアや業界誌からも好評いただいております。
HOTEL GREAT MORNINGのメディア掲載例
- ホテルの部屋やレストランでエアコン風が直撃!気になりますか?(瀧澤信秋) – 個人 – Yahoo!ニュース
- 《特集》ホテル・旅館のSDGs最前線 省エネルギー化建築の3事例 / 月刊ホテル旅館(2022年5月号)
- 建築業情報誌「ひとまちふくおか」(2022年夏)
- 「眠りにいい宿」で★★★認定(2022年現在、全国で3カ所のみ)
- 「【SDGs✖️ホテル】人も地球も喜ぶ!サステナブルホテル5選」に選出(2021年)
HOTEL GREAT MORNINGの省エネ性
ホテルでは珍しく「外断熱」を採用し、コンクリートの蓄熱性を利用することで、大幅なランニングコスト削減にも成功しています。
※1,200㎡・9階建て(25部屋)のホテルで、電気代は平均月18万円前後で推移。
(電気代にはテレビ、冷蔵庫等の電化製品、照明も含む)
HOTEL GREAT MORNINGの評価とクチコミ
ホテル評論家・瀧澤信秋様
エアコンのない理由は冷却パネルで全体を冷やすシステムを採用しているからで、湿度も丁度良く自然の空気に触れている感覚です。高原の避暑地にいるような、とにかく空気がキレイなことを実感します。エアコンの風が苦手な者としても感涙モノでした。
引用:ホテルの部屋やレストランでエアコン風が直撃!気になりますか?(瀧澤信秋) – 個人 – Yahoo!ニュース
楽天トラベル(総合評価:5.00/5点満点)
BOOKING.COM(総合評価:9.2/10点)
agoda(9.3/10点満点:最高!)
F-CONを導入されたホテルオーナー様のお声
沖縄県の座間味島は自然が物凄く豊かで、外の環境が物凄くキレイで、空気がキレイなので、そういうところで遊んだ方が部屋に入った時に、部屋の中の空気もキレイだったら素敵だなと思って輻射式冷暖房システムを導入させていただきました。
喉が痛くないとか、目覚めが良いっていうのは、皆さんおっしゃっていますね。
2019年7月のオープン以来、半年間で3回くらい来られている方とか、リピーターの方もいらっしゃいます。
無料の温熱環境コンサルティング
ホテルの差別化として輻射式冷暖房を導入検討されている企業様へ、FUTAEDAは無料で温熱環境コンサルティングを承っております。
- 熱負荷計算など、事前の温熱環境設計に関する知見が無い
- 輻射式冷暖房を検討したいが、有効活用できるかわからない
- 輻射式冷暖房を導入したいが、どのメーカーにすべきか判断できない
上記のような課題やお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。
また、法人様向けのF-CON体感会も実施しておりますので、ご興味がございましたら、ぜひご参加ください。
自社研究施設、自社ホテル運営など、数値的根拠を重視して研究開発に臨む当社ならではの知見で、より良い空間づくりのためのお手伝いをさせていただきます。
無風の輻射式冷暖房システム「F-CON」
法人様向け「F-CON体感」説明会
弊社モデルルーム(東京・京都・福岡)にて、輻射式冷暖房「F-CON」がもたらす健康的で快適な空間を「体感」していただける機会をご用意しております。