輻射式冷暖房の導入フロー

輻射式冷暖房の導入に必要な3STEP

西山 大貴

九州大学工学部卒業。輻射式冷暖房「F-CON」の製品開発や国内外の熱負荷計算業務に従事。

輻射式冷暖房は室温と輻射熱をコントロールし、温熱環境を総合的に向上させるシステムです。より快適で上質な空間を求めて、輻射式冷暖房を導入する住宅や施設が増えています。

このページでは輻射式冷暖房の導入に必要な3STEPを、業界の実態など、やや踏み込んだ話題も交えながら解説していきます。

他の冷暖房機器と比べて情報が少なく、設備選びのポイントや導入の手順がわからないとお困りの方は、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

輻射式冷暖房の導入に必要な3STEP

輻射式冷暖房の導入に必要な工程は、大きく分けると次の3つです。

  • STEP1:温熱環境の調査
  • STEP2:最適な輻射パネルを選定
  • STEP3:最適な室外機の選定

特にSTEP1は導入の成否を分ける重要な工程です。この工程を蔑ろにすると輻射式冷暖房の効果を存分に引き出せず、 後日エアコンを増設するなど、何らかの措置をとらなければいけません。

いずれにせよ、どの工程も 専門知識を要する点が導入のハードルを上げているのは確かです。この3STEPを軽視したことによる失敗談から、「輻射式冷暖房は効かないのでは」といったネガティブな意見も見聞きします。

しかし、各プロセスを適切に踏めば、輻射式冷暖房の魅力は余すことなく享受できるので、ご安心ください。

FUTAEDA株式会社では輻射式冷暖房の導入を検討されている方に向けて、温熱環境コンサルティングを無料で承っています。ご不明な点やお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。

STEP1:温熱環境の調査

輻射式冷暖房を用いて空間全体の温熱環境を快適かつ安定的に保つには、温熱環境の調査と設計が欠かせません。

同じ都道府県内でも山間部と平野部 とでは気候が違うように、外気温・湿度・日射量など外的環境が変われば建物の熱の収支は異なり、その環境に適した輻射パネルの能力や台数も変わっていきます。

もちろん、建物の使用目的や利用人数をはじめとする内的環境も、パネルの選定を大きく左右します。

そこで、STEP1では外的環境と内的環境をヒアリングして熱負荷計算を実施し、建物の熱の収支を正しく把握した上で設計を行います。

次項にいくつかの例を挙げた通り、ヒアリングの内容は多岐に渡ります。この細かなヒアリングをせずに、UA値やηAC値といった断熱性能の基準値のみで温熱環境を設計すると、 輻射式冷暖房は有効活用できず、トラブルの原因になることもあります。

外的環境のヒアリング項目例

窓回り窓の種類・面積・方位、カーテンの種類、軒などの日射遮蔽物の有無
外壁外壁の方位と面積、断熱材の種類と厚み、構成
気候所在地

内的環境のヒアリング項目例

建物の利用人数、運動状態
換気換気回数、熱交換型の有無
機器照明器具やテレビ・パソコンといった電化製品の種類と台数、事務機器や医療機器の有無(有りの場合はその種類や台数)

STEP2:最適な輻射パネルの選定

STEP1の調査結果を踏まえ、STEP2では輻射パネルを選定していきます。この工程には3つのポイントがあります。

  1. 輻射パネルの種類の選び方
  2. 設置台数やサイズの決め方
  3. 設置場所の決め方

輻射パネルの選び方

輻射パネルの種類を失敗なく選定するためには、まずパネルの仕組みと性能を左右する要素を知り、そして性能評価の見極め方や耐久性に注目しましょう。

輻射パネルの構造

輻射パネルは主に4 つのパート で構成されています。

流水部室外機からの配管をつなぎ、冷温水を流す部分です。
放熱部冷温水から輻射した熱を室内側の空気へ伝える部分です。
結露受け部流水部に冷水を流す冷房時は、放熱部の表面が結露します。結露受け部は、その結露水を受け止める 部分です。受け止めた結露水はドレン配管を通じて外に排出されます。特に梅雨時期など日本の高湿度な環境において、結露受け部は欠かせません。
構造部上記3つ(流水部、放熱部、結露受け部)を壁や床や天井で支える部分です。

輻射パネルの性能

輻射パネル性能の4要素
輻射パネル性能の4要素

輻射パネルの性能は、輻射熱と対流熱を合算した放熱量で決まります。なお、輻射熱の量は「A:放射率」「B:見かけの面積」「C:パネルの表面温度」に左右され、対流熱の量は「D:放熱部が空気に接している面積とバランス」に左右されます。

放射率の高さのみをアピールしているメーカーも少なくありませんが、照明に置き換えて考えると、その売り込みの是非がよくわかるでしょう。

輻射パネル照明 
放射率光が明るく見える色の度合い
見かけの面積面積
パネルの表面温度明るさ
放熱部が空気に接している面積とバランス照明の光が室内に効率よく拡散しやすい形状や素材

より大きく、より照度の高い照明器具のほうが、室内を明るく照らします。それと同じく、輻射パネルの性能の良し悪しには、放射率以外の3要素も深く関係しています。

A:放射率

放射率とは物体が放射する能率で、0〜100%の範囲で示します。輻射パネルの性能の差は、放射率では出にくいと言われています。なぜなら放熱部の表面処理や塗装に使われる素材の放射率が、もともと90%前後と非常に高いからです。

また、「金属だから放射率が低い、非金属だから高い」といった表現を目にすることもありますが、金属の中でも放射率が低いのは、表面に光沢のある素材に限られます。

B:見かけの面積
見かけの面積

輻射パネルの能力は、放熱部の見えている面積、すなわち見かけの面積が広いほど高くなります。

例えばスリット構造のオイルヒーターを真横にすると、スリットの間から向こう側の壁が見えます。この状態は空気と接する面積が広く、対流熱も多い反面、見かけの面積が少なく、受け取れる輻射量は決して多くありません。

オイルヒーター

仮に輻射パネルの周りを観葉植物や家具で囲ってしまうと、輻射熱が遮られ、冷暖房効果は弱まります。

お客様から「輻射パネルのサイズを小さくしてほしい」とのご要望も受けますが、相応の面積を確保してこそ、輻射パネルは十分な能力を発揮します。

C:パネルの表面温度

パネルの表面温度が、暖房時には高いほど、冷房時には低いほど、冷暖房機能は向上します。 流水部から放熱部への熱の流れをよりスムーズにすることで、パネルの表面温度は効率良く制御できます。

暖房時を例に挙げると、流水部から50℃の温水を流しても、放熱部の表面で40℃まで下がってしまうようでは、熱伝導率が悪く、輻射熱の性能が低いと言わざるを得ません。

詳しくは「輻射パネルの性能を正しく評価するために」へ

大半のメーカーは、熱伝導率の高い金属製の素材を用いて、流水部から放熱部へ熱がスムーズに流れるように輻射パネルを設計しています。

FUTAEDA株式会社の研究チームは、毎日さまざまな形状や素材の熱解析を行いながら、数百に上るパターンをシミュレーションし、その結果を製品に反映させています。

輻射パネルの設計とシミュレーション
輻射パネルの設計とシミュレーション
D:放熱部が空気に接している面積とバランス

室内の空気と接している放熱部の面積が広いほどパネルの性能は上がります。しかし、その面積がいくら広くても、空気と接している部分に熱がこもってしまう構造だと、放熱性能は上がりません。

輻射パネルの性能評価

輻射パネルを選ぶ際は、カタログや仕様書に記載されている性能評価を確認することも大切です。

ところが、現時点で輻射式冷暖房にはJIS規格がなく、温熱環境の知識を備えていなければ、各社が打ち出している性能評価の正確性を見抜くことは困難と言えるでしょう。

残念ながら、実測値ではなく仮定値や推測値をオーバーに見積もって、平然と仕様書に載せているパネルメーカーも少なからず存在し、その数値と実際の性能が3~4倍 違うことさえあります。

また、正しく熱負荷計算や性能評価ができず、最初からエアコンの併用を前提に商談を進めてくる業者もいるので、くれぐれもご注意ください。

自社で大型の環境試験室を保有し、放熱特性試験を実施しているFUTAEDA株式会社では、すべて実測値に基づいた設計を行っています。その結果、大手ゼネコンや設備設計事務所をはじめ、多くのクライアント様から高い評価を得ています。

自社環境試験室

輻射パネルの耐久性

輻射式冷暖房はエアコンに比べて導入費用が高額ですが、パネル本体はエアコンよりも長持ちし、使用日数で割って考えると、あながち高額とも言い切れません(ただし、室外機の耐用年数はエアコンと同等)。

加えて、法人で購入される際は税務上の償却年数以上に使用でき、経済性も上がります。

金属製の輻射パネルは構造部や放熱部に可動する箇所がなく、頑丈な作りであるため、簡単に故障することはないでしょう。

配管の選び方

輻射パネルの耐久性を担うもっとも重要な部分が流水部の配管です。流水部に使われる配管の材質はほとんどが鉄・銅・アルミ・ステンレス、もしくは非金属の樹脂になります。

流水部の材質不凍液表面温度
金属
アルミ
ステンレス
非金属樹脂

FUTAEDA株式会社は日本で唯一、耐久性の高い素材として流水部の配管にステンレスを採用し、特許を取得。

弊社で製造・販売している輻射パネルの保証期間は他のメーカーと同等ながら、流水部をステンレス配管にすることで、製品の期待寿命が約50年以上となっています。

地域によって水質が異なろうとも、ステンレスであれば日本各地の水道水や不凍液に対応できます。

特に業務用の輻射式冷暖房は、不凍液ではなく水道水を利用するため、より高い耐久性が求められます。

詳しくは「ステンレス配管の期待寿命について」へ

循環液として水道水を流す設備では、アルミや銅の配管も多く見受けられます。

しかし、どちらも経年劣化による腐食の可能性があり、孔食(金属の表面に小さな穴ができる現象)の原因になるので推奨はできません。

また、銅製の配管に関しても孔食の発生リスクが高いとして、一部の自治体では注意喚起を促しています。

孔食

FUTAEDAパネルの配管は、50年以上の耐久性を部品メーカーにて立証済みです。

また、流水部以外にも予測される腐食(孔食(ピンホール)や潰食、ガルバニック腐食)にも発生リスクを抑えるため工夫を行っています。

さらに出荷の際には、通常の利用時にかかる何倍もの圧力をかけ、全数の漏水チェックを実施しています。

流水部の配管で注意すべきポイント
金属
錆びて酸化鉄になるのを防ぐため、水中の溶存酸素に注意すると共に、配管内に空気が混入しないよう密閉された配管回路に設計する必要があります。大型施設は気水分離器で対応します。

孔食や潰食に注意。複数の自治体が漏水リスクを指摘していることから、現在は水道管に銅管を使うケースが激減し、設備業者もほとんど扱わなくなっています。

参考:函館市役所『給水や給湯用に配管されている銅管の孔食
参考:別海町役場『水道用銅管の孔食(ピンホール)』

アルミ孔食や潰食に注意。アルマイト処理を行っても、微細な塵で剥がれる可能性があり、特に施工中のゴミの混入は避けなければなりません。2022年時点で冷媒ガス用のアルミ配管は販売されていますが、水道水用のアルミ配管は販売されていない点からも、取り扱いの難しさが窺えるでしょう。
ステンレス現在のところ、高い耐久性を求められる業務用設備のほとんどがステンレス配管です。鉄配管と比較して錆びにくい反面、高額な点がデメリット。
非金属
樹脂暖房時は配管内を流れる温水の温度が下がり、おのずと表面温度も下がるため、金属製の配管に比べて輻射熱が少なくなります。また、リサイクル率が低く、SDGsの観点から樹脂配管の使用を懸念する声も上がっています。

輻射パネルの設置台数やサイズの決め方

輻射パネルの設置台数やサイズは、温熱環境の調査と連動して決めていきます。

仮に建物から出る熱の量が多ければ、そのぶんパネルの設置台数を増やすか、サイズを大きくしなければいけませんが、気軽に増やせるほどパネルの費用は安くありません。

そこで、弊社では建築側の視点に立ったコンサルティングも適宜行い、建物から出る熱を抑えられるよう、パネルの設置台数やサイズをご提案しています。

設置場所の決め方

輻射パネルの設置台数やサイズが決まったら、次は設置場所です。

輻射パネルは設置する位置によって、壁式タイプとパーテーションのように使う自立式タイプの2種類に大別されます。

そのうち設置時により注意したいのが、壁と一体化させられる前者の壁式タイプです。

同タイプは冷房時に壁を冷やさないよう、しっかりと断熱処理を施さなければなりません。

その理由は、パネルによって内壁が冷やされる一方、外気温で外壁が温められると、壁内に温度差が生じて結露の発生につながるからです。

壁内結露のトラブル例

壁内結露は視認しづらく、気づいた時には建物の強度が著しく低下するほど進行してしまう事例も少なくありません。そうならないために、壁式の輻射パネルを設置する際は断熱処理が不可欠です。

詳しくは「FUTAEDAパネル(自立式輻射パネル)の設置規定」へ

STEP3:最適な室外機を選定する

3つ目の工程は室外機の選定です。室外機は冷暖房機器の性能や省エネ性に大きく影響するものなので、慎重に選ぶ必要があります。

室外機の選び方

室外機を選定する際に、カタログや仕様書の数値のみで性能を判断するのは推奨できません。その理由は、輻射式冷暖房で用いるヒートポンプ式室外機の能力が「外気温」と「輻射式パネルを流れる冷温水の温度」の差で決まるからです。

室外機の能力は地域環境に大きく影響されるため、設置場所の条件を十分に考慮しなければいけませんが、その大事な室外機選びを施工業者に任せているパネルメーカーも一部で散見できます。

一方、快適な輻射式冷暖房をご提供する上で、室外機の選定力も必須のスキルだと考えるFUTAEDA株式会社では、室外機メーカーから外気温に応じた性能表を取り寄せ、さらに全国各地の温度域や気象条件と組み合わせたデータを集積。

熱負荷計算を行って輻射パネルを選定した後、パネルの能力に必要な冷温水の温度と外気条件を加味し、その建物に適した室外機をご提案しています。

まとめ

このページでは輻射式冷暖房の導入に必要な工程を3STEPに分けて紹介しましたが、3STEPといえども、これらをすべて行うのはかなりの労力がかかり、なおかつ、専門知識がなければ現実的に難しいのではないかと考えられます。

そこでFUTAEDA株式会社では、輻射式冷暖房の導入を検討されている企業様へ無料で温熱環境コンサルティングを承っています。

  • 輻射式冷暖房を有効活用できるかわからない
  • どの輻射式冷暖房メーカーにすべきか判断できない
  • 事前の温熱環境設計に関する知見がない

上記のようなお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。

自社の研究施設を持ち、科学的根拠に基づいて開発を続けてきた弊社が、皆様のより良い空間づくりをサポートさせていただきます。

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